千年後のいないいないばあ
N○Kの人気教育番組「いないいないばあ」
衰えることを知らない人気っぷりを維持し続けて千年が経とうとしている。
その間にテレビ放送局は潰れ、日本の人口は大幅に減少し百人程度になってしまった。もうこの番組を見てくれるのは幼くして亡くなった子供の魂と、西方浄土に旅立つべく過酷な修行をする仏教徒のみ。
ワンワンとうーたんは生物を超越した存在となり、今や神と同格の扱いを受けている。
朝8時25分
おかあさんといっしょと発頃凛が終わったと同時にうーたんは光とともに姿を現した。
「みんな集まれ〜!」
うーたんのはつらつとした声を聞いた子供の魂と教徒が集まってくる。
普段ならうーたんと一緒にワンワンも出てくるのだが、今日は何故か登場が遅い。
「あれ〜?ワンワンどうしたのかなぁ?まだこないよぉ〜」
「ご、ごめぇ〜ん!」
「おそいよぉ〜ワンワン〜!もういないいないばあはじまってるよぉ〜」
「ちょっと寝坊しちゃってぇ」
「いつもはやおきのワンワンがおねぼうなんてめずらしい!みんなもおねぼう、したことあるかな?」
うーたんの問いかけに子供達の魂は「うん」と一斉に答える。
「だよね〜うーたんもおねぼうしたことあるよぉ!う〜んとね〜……ひゃくねんまえかなぁ?」
"百年前"
うーたんが口に出した途端、子供達の表情が翳り静まり返った。
そう、この子供達は百年前の大災害で命を落としたのだ。
ワンワンが「ごめんね。不安にさせてしまったな」と謝罪し、子供達は再び笑顔を見せた。なんとか場の空気を変えることに成功したワンワンは「ふぅ」とため息をつく。
これは間違いなくうーたんが悪いのだが、うーたんには百年前の記憶がなく、大災害のことも覚えていない。
長年生きてきて記憶力が悪くなったのではなく、大災害で子供達と仲間を失ったショックのあまり記憶喪失になってしまったのだ。
ワンワンはうーたんの記憶を元に戻そうと試みようとしたが、うーたんの天真爛漫な笑顔を見て
「記憶が戻ってしまったらうーたんは悲しむ。うーたんの悲しむ顔は見たくない」
優しいワンワンはそう決心し、うーたんの記憶を戻そうとするのをやめたのだ。
いないいないばあが終わり、ワンワンとうーたんはいつものように子供達の魂を浄土へ送っていた。
「またねー!」
全ての子供達を見送ったところで、ワンワンとうーたんは神の住む国へと帰るのだが、今日は何故かワンワンは帰ろうとせず、そばにある岩に腰掛けて空を見つめる。
「あれぇー?ワンワンどうしたのぉー?」
いつものようにはつらつとした声でワンワンに話しかけるうーたん。
その目はダイヤモンドのごとくキラキラと輝いていて汚れを知らない。
ワンワンは「お空を見て今日のご飯何かなーって考えてた」と答えた。
嘘だとすぐバレる誤魔化しはうーたんにはきかない。疑うことを知らないからだ。本当は百年前のことを思い出して辛くなり空を見上げて気を紛らわそうとしたなんて言えるはずもない。
「おもしろそ〜!」
うーたんはワンワンの隣に瞬間移動し、同じように空を見上げた。
「うわぁ〜あのくも、どーなつみたいだよぉ〜あははは」
ドーナツ雲を見つけ無邪気に笑ううーたん。
その姿を見てワンワンはもう二度と悲しみが起こらぬよう空に向かって祈ったのであった。