戦国時代のシュンオグリ
昨日はちょっと特別なところに行って来た。
そう
"戦国時代"
戦国時代とはよく女の子にされる織田信長、女の子説のある上杉謙信、その彼氏にされることの多い武田信玄などが活躍していた時代だ。
その戦国時代を意識したホストクラブに行って来た。
面接に。
裏口から入るように採用担当者から言われ、裏口から入った。
戸のしまりがたいへん悪く、鍵もかからない。儲かっているのに何故戸を直さないのか気になったが、面接の時にそれを言ってしまうと即打ち首間違いなし。
「し、失礼します」
僕は緊張のあまり、声が震えて小梅太夫みたいな裏声になってしまった。
チックショー!!!
「どうぞどうぞ、そこのソファー座って」
真っ暗で人の顔がよく見えなかったので戸の横にある電気のスイッチを付けて確認した。
新田真剣佑激似のイケメンだった。間違いない。この採用担当者、店のナンバーワンだ。
「ひ、広瀬たけるです、よ、よろしくお願いします!!」
「そんな緊張しなくていいよー。あ、俺は上杉謙信。みんなから源氏名と言われるけど本名。よろしくね」
上杉謙信さん……なんていい人なんだ……堅苦しさもないし柔らかい雰囲気の好青年だ。そして笑顔が太陽並に眩しい。
「広瀬クンさ、フーゾクは初めて?」
「は、はい!」
「ドンマイだな〜」
「え、えっ?どういうことですか?」
どうやらここのホストはお客さんと和気藹々とした会話を楽しむ普通のホストとは違い、江頭2:50のコスプレをして小島よしおの持ちネタを披露し、最後に全裸になってブリッジしないといけない全くもって意味のわからないホストクラブなのだ。もはやホストじゃない。
お客さんもやはりそういう性癖(SM)
を持った人ばかりで、股間を踏み潰すお客さんも多いという。
上杉さん曰くお世辞にもいい顔とは言えないしトーク術もない人を救うために作られたホストクラブなので本気でホストをやりたい人は1日も経たずにやめてしまうという。
そりゃあ辞めるわ。
その後、上杉さんに案内され店を見学したが、やはり所属ホストは皆アンガールズ田中のような木の皮ととっとこハム太郎の耳の部分のような顔をしていてお世辞にもイケメンとは言えない人たちばかりであった。
僕は思わずスーパーのトイレの便器にこびりついたウンコを見るような目で見てしまった。僕はここで働くべきではない。上杉さんは「お前はここにくるべきではなかったんだよ」と言いそうな顔で歪んだ顔の僕を見つめこう言った。
「あ、俺ここのスタッフじゃないから……」
上杉さんは心底この店が嫌いなのだろう。
顔に思いっきり出ていた。
僕も同じだ。
ここで働いてる人達から輝きも何も感じないし、目も死んでいる。
仕方なく働いてる感じが出ていて見るに耐えなかった。
何が救済だ。ふつうにホストと同じような業務をやらせれば、彼らの目はダイヤモンドユカイのごとく目がギンギラギンにさりげなく光り輝いたかもしれない。
救済は時に人々を苦しめる拷問となる。
自分が善と思ってやってることが裏目に出て悪になる。
僕はホストクラブ戦国時代で働く人たちを見てこの世に「善」はないんだと確信した。
「ありがとうございました」
「面接の結果は後日電話でおしらせしますね。あとそれと……」
上杉さんは僕に近づき耳元で「あんなもの見せてしまってごめんね」と囁いてカバンから松村沙友理ちゃんの写真集を取り出し僕にプレゼントしてくれた。
「これで許してほしいニャン」
最後のニャンは一体なんなのかわからないが、恐らく僕を元気付けるためのものだろうと勝手に推測した。
色々と濃すぎた面接は終わり、僕は家路につく。
忘れてしまう前に僕は上杉さんに電話をかけた。
『もしもし?』
「あっ、今日面接した広瀬です」
『あー広瀬クン!今日はどうもありがとね』
「あの、早速なんですが……」
『ん?もしかして辞退?』
"ジタイ"
その三文字を聞いて僕は驚きのあまり宇宙まで飛んでしまった。
上杉さんには僕の考えていることも言いたいことも筒抜けのようだ。
「あっはい!!辞退させていただきます!!」
『俺もね、ちょうど今広瀬クンに伝えようと思ってね……。もしかして俺ら運命の赤い糸で結ばれてるのかもしれないね』
突然の告白に僕は心が締め付けられた。
これはもしかして、
恋!?
「そ、そうかも、しれませんね!!」
『ねぇ、広瀬クン、俺と付き合わない?』
上杉さんはなぜプリンセス天功並のイリュージョニストで完璧な人間ではなく、僕のような何も取り柄のない職もないダメ人間を選んだのだろう。
僕は不思議でたまらない。思わず僕は「僕には上杉さんと付き合う資格はないです!」と電話越しに叫んでしまった。
だが上杉さんはブレることもなく「付き合って」の一点張り。
もうこれはおとなしく降参して付き合うしかない。こんな新田真剣佑激似のイケメンと付き合えるなんて僕は運がいいんだ。自慢ができる。
そう思い僕はOKを出した。
それから僕たちは付き合うこととなったのだが、上杉さんがあまりにも重たい人で会うたび「俺たちは死ぬまで一緒」「一生一緒にいてくれ」など三木道三の真似事をするので僕は毎回ウンザリしていた。彼の思いは僕に届くことはなく僕らは三ヶ月で破局した。
それからというもの僕は上杉さんからのストーカー被害に遭っている。
警察に相談したが相手にされず。毎日上杉さんからの電話やピンポン、謎の贈り物に苦しんでいる。
僕はどうしたらいいんだ?
そんな気持ちでこの記事を書いた。
今日も僕は一人、松村沙友理ちゃんの写真集を見てあき竹城とネズミランドデートをする妄想に耽るのであった。